いま、再始動を告知するためにキーボードを叩きはじめました。水面下で手を動かす時期が終わり、プロダクトで評価される立場に戻ることへの緊張と高揚で指がソワソワしています。長くなってしまうかもしれませんが、いってみましょう。
📚これまでのあらすじ
初めましての方のために、ここ10年くらいの振り返りを少しだけ。
💡 2012-2018:「フリマアプリ」発明からの6年
デザイナーがスタートアップをつくり、EXITするということ に書いたように、僕はもともとフリマアプリの「フリル」というサービスを共同創業者として作っていました。日本初のフリマアプリとしてリリースし、すべての競合サービスに模倣されつつも成長し、楽天に買収され、ラクマとの合併を経て月間取扱高100億を超えるようなサービスに育っていきました。
紆余曲折あったものの、自分たちが名付けた「フリマアプリ」というジャンルのサービスが、競合も含めて世に広がっていきコンビニに行けば必ず目にするようなモノになるという。作り手としては得難い体験をしつつサービスとチームの統合が完了した2018年に退任して、もう3年くらい経ってしまいました。早すぎる。
👼 2018年: エンジェル投資とANGEL PORT
2018年の11月には、退任の報告と新しいサービスのリリースをお知らせしました。「ANGEL PORT」という起業家とエンジェル投資家のマッチングSNSです。
以前からエンジェルとしていくつかのスタートアップを支援していたこともあり、その課題感からつくったサービスでした。このサービスが存在する意義を感じてはいたものの「次の10年を何に賭けるか?」を問うたときに、これではないという直感もありました。やはりもう一度、フリマアプリを超えるような、ふつうの人々が使うプロダクトを生み出したいと言う気持ちが消えなかったんですね。
結局、ANGEL PORTは昨年事業譲渡をしました。思い入れのあるサービスなので、なんとか成功してほしいなと思っています。がんばれー。
🇬🇧 2019年: ロンドン・ベルリン・東京
2019年にはロンドンやベルリンまで「チャレンジャーバンク」のリサーチに行ってきました。その様子はこれらのエントリにも書いています。 この時2011年にシリコンバレーでCtoCに感じた熱量に近いものを感じて、帰国後の2019年4月には法人の登記を済ませました。会社名は「スマートバンク」です。どストレート。
ちなみに「フリル」の共同創業者である @yutadayo(CTO) と @shota(CEO) の双子の兄弟とは、今日に至るまで10年ほど行動を共にしています。ざっくりとした役割分担としては下記のような感じ。
これまで、なんだかんだ @shota より嗅覚の鋭いビジネスマンにも、@yutadayo よりも執着心のあるエンジニアにも出会わなかったので、自然とそんな関係が続いています。
🆕 新しいサービス
それから2年近く経ち、今年の1月にようやくアプリをリリースすることができました。サービスの名称はB/43(ビーヨンサン)といいます。「Balance(残高) / 43(予算)」 や「Budget(予算) / 43 (資産)」 を意識して生活できるように、という願いを込めています。
🎬 どんなサービスか
B/43は「家計簿アプリ」と「Visaプリペイドカード」がセットになった「家計簿プリカ」という新しいサービスです。毎月の予算をカードにチャージして日々の支払いをすることで、自動で記録され、見える化されるので、支出管理をかんたんに継続することができます。
またポケットというサブ口座に目的別のお金を分けておくだけの「ポケット家計管理」でよりズボラな支出管理をすることができます。
🕐 タイムライン・入出金・カード管理
ホーム画面では「支払い履歴」と「残高の増減グラフ」を見ることができ、1タップで明細を確認できます。と書くと何ということはなさそうですが、他のサービスにはない心地よいルック&フィールが自慢です。ここだけでも体験して、アプリエンジニアのクラフトマンシップを感じてほしいです。
入金にはいまのところコンビニ・ペイジー・銀行振込などの手段を用意しています。また、現金が使えない店もあるのでセブン銀行ATMで出金できるようにしています。 月に2回まで無料なので、自分自身キャッシュカードがいらなくなってかなり助かってます。
📅 月間まとめ・予算の設定
いわゆる家計簿アプリのように、カテゴリごとの支出を確認できます。またあらかじめ予算を設定しておくと、支払いの度にプッシュ通知で残りの予算を確認できます。 そして月初には前月のレポートが届くので、毎月の予算を見直す改善サイクルが回ります。
👛 ポケット
特定の目的のために、残高を「ポケット」というサブ口座に一時的に分けておくことができます。カテゴリごとに予算管理するのが面倒な人は、ポケットに分けておくだけで気楽にお金をコントロールできるのでとてもおすすめです。
💳 物理カード
全ユーザーにVisaプリペイドカード(物理的なプラスチックカード)を無料で配布しています。ネットショッピングだけでなく、スーパー・コンビニ・ショッピングモールなど普段買い物しているお店で利用することができます。
🌓 ダークモード対応
アプリエンジニアのこだわりもあり、最初からダークモードに対応しています。最高です。
🚫 便利は不便、不便は便利
B/43にはふつうの「家計簿アプリ」や「クレジットカード」についている様々な機能がありません。
支出履歴を手入力できないし、金融機関の口座も連携できません。分割払いもリボ払いもできません。それらは今のところイシューを解くためには「ないほうが便利」と思っている機能だからです。
もちろん「あるほうが便利」で、不足している機能も多いのですが、むやみやたらと増やさずに、1つ減らして、1つ増やすくらいの気構えでやっていけたら理想だなーと思います。
(もちろん、まだPMFにも到達していないのでスクラップ&ビルドしていく可能性も大いにあります)
💭 なぜこれを作ったのか
チームとしてこのプロダクトを作った理由、特にどのようなイシューをどうやって捉えたのかといった点については、shotaのこちらの記事に詳しく書いてあるので省略して、ここには個人的な意見を書いておきます。
ひとことでいうと「多くの人が使える」「キャッシュレスで」「支出管理を継続できる」方法がまだ存在しないんじゃないか?と思ったんですよね。ターゲット層へのインタビューを重ねていくと、マジメに家計管理をしようとする人ほど、結局のところ現金管理になってしまっている現状があるように見えました。
紙であれアプリであれ、手入力での管理は継続するのに意志の力が必要です。 翌月に請求の来るクレジットカード決済を、節度を持って使うには記憶力や自制心が必要です。 複数の口座をアプリに連携して資産管理するには、金融資産とITリテラシーが必要です。
それらすべてが必要のない支出管理方法が、キャッシュレス時代に合わせて生まれる必然性があるんじゃないかと思いました。
だから、B/43はどちらかというと「持たざる人」のために設計されています。決めた事をやりぬく意志力を、高い自制心を、豊富な金融資産を「持っている人」にとっては、必要のないサービスかもしれません。
💸 既存の金融サービスへの想い
また個人的には、既存の金融サービスに対するもどかしさがありました。それは特定の企業に向けられたものというよりは「金融機関の組織・目線でつくられている」「サービスを複雑で分かりにくくするほど儲かる」という構造に対して感じたものです。
だから「ふつうの人の知識を前提に・なじみのある言葉やUIで作られている」「技術によってユーザーの長期的な幸福度を最大化する(そして利益を生む)」というチャレンジをこの分野でやりたいし、だからこそ「チャレンジャーバンク」「ネオバンク」「デジタルバンク」といった海外のバズワードをユーザーに押し付けるのではなくて、生活者目線でサービス提案していきたいなーと思います。
最初はニッチなサービスにはなりますが、少しずつ問題解決の幅を広げて、多くの人に使ってもらえるようなサービスにしていくつもりです。
🛠 どのように作っているか
🔰「かんたん」を生み出す文化
そんな感じで、サービスが「かんたんそうに見える」ことや実際に「かんたんに使える」ということには並々ならぬ想いがあります。
作ってみてわかったんですが、金融サービスって実際複雑なものなんですよね。複雑なものを素直に作ると、複雑なプロダクトになってしまうので、多くの人が「かんたん」と思うためには工夫が必要です。そこで…
- なるべく日常の言葉で語ること
- 一度に多くの、難しい情報を伝えないこと
- 慣れ親しんだUIを採用すること
あたりをチーム全体で気にかけるようにしています。具体的には設計中のUIをこまめにシェアする。わかりにくさを感じる点があればコメントする。もらった指摘はかならず検討する。
これを続けていると、時にはレビュー済みのデザインや実装済みのコードを破棄しなくてはならないこともあります。でもそれを恐れず何度も何度もわかりやすさについて考えること。それを普通の状態にすること。それを創業時からやり続けて文化にしていく事でしか「かんたん」を生み出し維持し続けることはできないのではないかと考えています。
(もちろん定量的なデータ分析の基盤も「ふつう」以上に整備されています。そこは両輪です。)
📖 時間・お金・法律の壁
実はこのプロダクトをつくりはじめてから、リリースするまでに2年近くかかっています。お金を扱うサービスなので、クリアすべき法的要件が山のようにあったからです。
決済サービスは「資金決済法」という法のルールの下で事業を展開していく必要があります。その大枠が頭に入っていないと、そもそもの設計を考えることもできません。また資金移動業というのができて10年位しか経っていない新しいビジネス分野なので法律や行政のガイドラインが、クリアすべき要件をすべて明確に定義してくれるわけではなく、ユーザーが望むプロダクトを法令の枠組みの中で実現していくためにはコンプライアンス部門や顧問弁護士と深く連携できる能力がPdMに求められているなと感じます。
また「Visaプリペイドカードを発行する」というのも実は結構大変で、決済ネットワークに接続したり、決済電文を処理したり、カードを印刷したり、本人確認したり、配送オペレーションを構築したりと、多くのシステム・業務フロー・プロダクトを設計する必要がありました。しかし、そのために必要な知識は業界外からはブラックボックスとなっていることも多く、2年間でいくつもの「なんもわからん...」を乗り越えてきました。
それをポジティブに振り返ると、新しいことを学び続けられた日々であったとも言えます。正直言って、Webサービスやアプリを10年以上も作ってきて、よくあるサービスなら手癖で作れてしまうようになったし、ちょっと飽きがきていたのも事実です。このサービスを作るのは色々と難しいし、大変ではあるんだけれども、作り手としてはやりがいがあって楽しめているなーと思います。
📈 空想を現実に、プロダクトを事業に
起業してプロダクトを作っていくというのは、自分の空想を現実として形作っていくプロセスであるとも言えます。幼い頃から空想家だった自分にとっては、ある意味天職かもしれません。自分の脳内だけに存在した魔法が現実世界に影響を及ぼしていくような奇妙な感覚には、中毒的な魅力があります。
「プロダクトで世界を変える」というのは行き過ぎた思い込みとしても、世界が求めるモノに形を与えたり、それが生まれる時期を早められたりという感覚は本当にあるんですよね。今回もそれを体感したくてやってるみたいなところは大いにあります。
もちろん、現実にはそれが受け入れられないことの方が多いですし、もし多くのユーザーを得られたとしてもそれが事業として利益を生み出さなくては、持続的に価値を提供し続けることができませんよね。空想を現実にするには、プロダクトを事業に昇華することもセットで必要なわけで、大変です。
今回もコストを無視すれば、最初からもっと機能を増やせたり、品質を高められたり、スピードを上げられたり、作るのが楽だったりする場面もあったんですが、いろいろとケチって工夫を重ねていいプロダクトというだけでなく、いいビジネスになるようにがんばっています。個人的にはそこまで含めてサービスデザイン、そこまで含めてプロダクトマネジメントかなーと思っています。
💌 最後に恒例のメンバー募集
長くなってしまいましたが、そんなことを考えながらいま B/43 というプロダクトを作っています。
現在のスマートバンク社は元Fablic(フリル・ラクマ)のメンバーを中心に、少数精鋭が集まっています。お互いにケアし合いながら、爆速で開発できるいいチームだなと思っています。
ただ、爆速すぎて新機能の要件定義やUIデザインがぼく一人だと追いつかなくなってきたので、自分以外の1人目のプロダクトマネージャー、1人目のUIデザイナーを募集しようと思っています。このブログと同時にコーポレートサイトにJob Descriptionも公開しているので、ぜひ見てもらえると嬉しいです。iOSエンジニア・Androidエンジニア・カスタマーサポートも募集中です。
以前からの友人たちにも、臆面もなく声をかけさせてもらおうと思ってます。最高な人たちと最高なプロダクトをつくりたいし、何年かに一回しかないチャンスなので。ここでタイミングがあったらそんなラッキーなことはないですからね。
ではまた!
🤝 採用リンク
弊社のコーポレートサイト。ぜひ採用情報だけでも見て帰ってください。
1人目のプロダクトマネージャーを募集中です。プロダクトリードになって僕の仕事を奪ってほしいです。
フルタイムとして1人目のサービスデザイナーを募集中です。いずれは全てをおまかせしたい!
次回予告
SmartBank社のCTO @yutadayo が明日ブログを公開予定です。
B/43の技術的チャレンジなどについて書いているはずなので、ぜひ読んでください。