デザイナーがスタートアップをつくり、EXITするということ
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デザイナーがスタートアップをつくり、EXITするということ

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2012年に日本初のフリマアプリ『フリル』をつくって6年、2016年に楽天にEXITしてもうすぐ2年が経とうとしている。少し時間ができたので、その間に学んだ色々なことを書き残しておこうと思う。

まずは僕自身の経験を通して、デザイナーが「スタートアップを創業する」というキャリア選択について記したい。これは起業を勧めるものではなく、あくまで個人的な手記ではあるけれど、学生や若手デザイナーの参考になれば嬉しい。

1. 新しいキャリアの選択肢

昔々、デザイナーのキャリアといえば代理店での広告デザインや、メーカーでのプロダクトデザインが花形だった。どちらも会社員として働くデザイナーだ。

前者で名前を上げた人が独立し、デザイン事務所を設立する。後者で名前を上げた人も独立し、デザイン事務所を設立する。デザイナーが事業会社を興すということは、一般的ではなかった。

スタートアップ企業は、その多くがテクノロジー関連の事業会社だ。数名で立ち上げられ、短期間での株式上場や買収によるEXITを目指す。デザイナーがその経営メンバーに参画することが、一般的になりつつある。

例えば、対等な3人で起業する場合、取り決めによって20~30%の株式を持つことも可能だろう。それと同じ割合の責任もセットにはなるけれど。

最適なキャリア選択は人それぞれだと思うが、自分自身はこういった選択肢のある2010年代にデザイナーでいられてよかったと思っている。

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最近はスタートアップの社員としてS.Oを持ったり、副業をしたりとキャリア選択の幅はさらに広がっている。また「デザイナー」の定義が広く曖昧だけれども、このエントリーでは説明を割愛する。

2. スタートアップの魅力

スタートアップがプロダクトを生み出し、事業を育てていく過程には大変なことも多い。それでも起業する人が多いのは、次のような魅力があるからだ。

楽しさ

自分達が考える最高のプロダクト、最高の組織を追求することは楽しい。これができている間はアドレナリンが止まらないように感じて、苦労を苦労と思わず働き続けることができる。

やりがい

新しい仲間を採用できたとき、プロダクトに反響があったとき。その人生や社会に対して影響を与えるとき、大きな責任とやりがいを感じる。

リターン

もし会社が理想的に成長し、上場や買収まで到達できたら、経済的に得られるリターンは大きなものになる。もし仮にうまく行かなかったとしても、起業経験のあるデザイナーは転職市場で高く評価されるだろう。

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3. 創業時に必要なこと

「スタートアップの創業時に必要なことは何ですか?」と聞かれたら、月並みだが次のようなことを挙げるだろう。

サービスづくりを楽しめること

とにかく楽しいことが努力を続ける源泉になるので「デザイン」を広い意味で捉えて、なんでも楽しめる人は強い。僕の場合は、まさにそのパターンだったので、手を動かし続けることはまったく苦にならなかった。

例えば「新しい座席を考える」とか「議事録のテンプレをつくる」といった仕事であっても、回り回ってプロダクトの改善につながると思えば楽しめたので、普通の人よりもストレスが少なかったと思う。(それでも眠れない夜はあったけれど)

よいパートナーを見つけること

よく他の人に言われるのは、創業チームのバランスがよかったということだ。「正しく市場とタイミングを見極められるビズデブ」「正しくプロダクトを設計できるデザイナー」「正しくコードを書けるエンジニア」一人でこなすには、スタートアップは難しすぎる。

正しい市場に、正しいタイミングで参入すること

これはビジネスサイドでよく語られることだが、デザイナー視点では「いいビズデブを見つける」ことが「いい市場を見つける」一番の近道だ。だから、結局のところ「よいパートナーを見つけること」が最も重要なんだと思う。

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4. どんなことをやっていくのか

前置きが長くなったけれど、ここからは僕の体験談を語りたい。これまた長くなってしまうけれど、詳らかに具体的に書こうと思う。

🥚起業までの経緯

地方の美大を出て上京した僕は、ECナビ(現VOYAGE GROUP)に新卒デザイナーとして入社し、いくつかの新規事業やコーポレートブランディングに携わった。学生時代も色々なものをつくってきたけれど、創作対象としてのインターネットは圧倒的な面白さですっかり虜になってしまった。

同じように地方から出てきてインターネットの虜になった新卒の同期に @shota@yutadayo がいた。彼らは双子の兄弟で、ビジネスとエンジニアリングに興味を持っていた。そして異常なほどインターネットの仕事が好きだった。僕らは平日は深夜まで一緒に仕事をし、週末も共に過ごすようになる。(そして後に会社を共同創業する)

程なくプライベートワークとして、Webサービスをつくりはじめた僕らは『ガラケー用のチェックイン機能付きTwitterクライアント』『Twitter版の調整さん』などの俺たちの思う最強のサービスを作り上げていった。今にして思うと、この時サービスをほとんど使ってもらえなかったことが、起業時に『人が本当に欲しがるものを創る』というミッションを掲げることに繋がっているのだと思う。

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2009年当時、気づいたことがある。『本当にいいサービスを作ろうと思ったら、Webデザイナーの職域として定義されている「デザイン」だけでは無理だ』ということだ。今でこそUXデザインという言葉で語られるアレコレは、当時はWebディレクターの仕事とされていた。そのため、本格的にディレクションを学ぶべく当時「livedoorディレクターブログ」で有名だったライブドアに転職し、新規サービスの開発ディレクターとして少しの間お世話になった。

ECナビは事業開発会社であり、ライブドアはプロダクト開発会社だった。前者はデザイナーやエンジニアも事業目標へのコミットを持っており、後者はクオリティにこだわり、たとえリリース可能なプロダクトがあってもそれを見送る判断ができる会社だった。新卒からの数年間を「デザイナーとディレクター」「事業とプロダクト」という複数の視点、「新規サービス」という一貫した軸で経験を積めたことで、当時としては珍しいスタートアップ向きのスキルを獲得することに繋がったと思う。両社と元同僚の方々には今でも深く感謝している。

その後、三人で訪れたサンフランシスコで起業を決意するのだけれど、そのあたりは@shotaの書いた「僕がフリマアプリを創った理由」というエントリを読んで欲しい。

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経歴をまとめると、このようになる。デザイナーとしてはかなり傍流であることがお分かりいただけると思う。

起業してからやったこと

上記の2社で経験を積ませてもらった結果、起業時には次のようなスキルが(最低限のレベルで)身に着いていた。

・ユーザーインタビュー・情報設計(IA)・ワイヤーフレーム作成・グラフィックデザイン・マークアップ(html/css/js)・Google Analytics等でのKPIモニタリング

こんな広く浅いスキルでやっていけるのかと思われるかもしれないが、器用貧乏な性質が活きるのがスタートアップの立ち上げというものなのだ。

🐣立ち上げ期の仕事

初期のスタートアップでは、あらゆることが自分の仕事である。

① サービスを作る(仮説の検証)

最も重要なのはプロダクトだ。まず最初にやるべきことは仮説検証なので、とにかくスピードを意識して以下のサイクルを回していく。

1. ユーザーインタビューによって、定性的な一次情報を集める2. 一次情報を元に仮説を立て、プロトタイプを作る3. プロトタイプをユーザーに見せ、フィードバックを得る(1に戻る)

◆ ユーザーインタビュー / ユーザビリティテスト

サービスづくりの最初の一歩は、自分たちの思い込みをぶっ潰すことだ。そのために、実在するユーザーに会って話を聞く。その結果をプロトタイプに反映させて、また話を聞く。

よく「ユーザーの意見を聞いたらサービスがブレる」「顧客は自分が何が欲しいのかわかっていない」といった誤解があるが、ユーザーの声を通じて行動を観察することが目的だ。

このあたりは「UXリサーチの道具箱」という最近出た本によくまとまっているし、Fablic流のやり方もスクーに出演したときの資料にまとめたので見てもらえると嬉しい。

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◆ プロトタイプの作成 / グラフィックデザイン / マークアップ

このフェイズでは時間をかけて100点のデザインを作り込むよりも、サクッと80点のデザインを作ることが求められる。「どうせ作り直す」と割り切る部分と「ユーザーの心にぶっ刺すぞ」というこだわりのバランスが大事。

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② CEOの援護射撃

1人目のデザイナーとしてスタートアップに参画したなら、CEOの支援は将来に渡って重要な仕事の一つになる。

資金調達やイベント登壇のためのプレゼン資料、プレスリリース用の画像作成、イベントで配布するチラシ、名刺など、デザインが直接の武器となり彼らの力を増幅し、加速させることができるチャンスは多い。CEOにとっての「鍛冶屋」になるのだ。

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🐥成長期の仕事

「ユーザーが欲しがるプロダクトを、ユーザーが使えるように」作れたこと(PMF)が確認できたら、サービスを一気に成長させるフェイズに突入する。このフェイズではマーケティング業務とチーム作りの比重が増える。

① サービスを成長させる

ユーザー獲得のために行う仕事とは、例えば次のようなものだ。

・SEO・ASO・オンライン広告・テレビCM・キャンペーン・リアルイベント・リブランディング

その中でも印象的だったマーケティング業務を、いくつか紹介しよう。

◆ オンライン広告

広告バナーのデザインは、デザイナーがサービスの成長に寄与するための最も直接的な手段だ。担当することでグラフィック能力を鍛えられるし、数字に興味を持つ入り口にもなる。

「当たりクリエイティブ」といって、すごく効果の良いバナーが生まれることが稀にある。ひとつそれができると、しばらくは横展開で獲得効率を高めることができる。

これはCPI(1インストールあたりの広告費)が10円未満という、過去最高のパフォーマンスを記録したバナーだ。一見なんの変哲もないこのバナーが非凡な成果をあげた理由は、また別のエントリで解説する。

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◆ テレビCM

最近はオンライン広告の次の一手として、テレビCMに挑むスタートアップも増えてきた。けれどCMを打ち続けている会社というのはまだあまり多くないと思う。

テレビCMに限った話ではないが、物事を改善するにはサイクルを繰り返し回す必要があるし、テレビCMによるアプリマーケティング手法は、方法論がオープンになっておらず、様々な初見殺しが存在する。楽天の経済的バックアップにも恵まれ、FRIL/ラクマで10回以上テレビCMを実施したことで、効果的なCMのつくりかた、地雷の避け方がわかってきた。

テレビCMのクリエイティブプランニングは広告代理店側で行うので、(特に初回は)言われるがままに進んでいくことも多い。しかしながら、自社ブランドの定義、認知獲得の戦略について代理店側との認識にズレが生じることもあるので、そこはインハウスデザイナーが協力して修正していけるといい。

回数を重ねることで、絵コンテに対するレスポンスの精度が上がっていくし、ときにクリエイティブ提案が受け入れられることもある。FRILで山田孝之さんを起用したCMは、プロセスも結果もかなり素晴らしいプロジェクトだったので、この時のエピソードもどこかで紹介できればと思う。

② チームをつくる

拡大期には「Web版の開発」「iOS/Android両対応」「広告制作」「キャンペーン」などの業務がパラレルに進行することになり、2人目のデザイナーが必要になる。

デザイナーに限らず、ファウンダーとしての人材採用とは次のようなことを指す。これから常に「優先度高」で続けることになる仕事だ。

1. 自分たちが重要と考える価値観を明らかにする2. 価値観を明文化する3. 価値観を発信し、なるべく多くの人に知ってもらう4. 価値観に共感してくれた、なるべく多くの人と会い、口説く5. 価値観を採用基準として、面接を行う

価値観は採用だけでなく評価にも活用する、組織運営の軸となるものだ。この時期から人材採用をきっかけとして、カルチャーの明文化を行うことになる。これはファウンダーにしかできない重要な仕事だ。

もちろんデザイナー採用においては、価値観だけでなくスキルも見ることになる。この時期から手を動かせる時間が顕著に減るため、2人目のデザイナーは、手を動かす仕事を丸投げできる人だといい。

3人目以降はゼネラリストを中心に、スペシャリストの採用も視野に入れていく。いい人ばかり採用することは普通だと難しいので、価値観とそこから生まれる物語で人を惹きつけることが必要不可欠だ。

Fablicでは自分の上位互換になるようなデザイナー(@yuki930 @kurechon @wariemon)を立て続けに採用できた。このメンバーが揃っていたのは奇跡でなければ、価値観の引力だと思う。

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🐔成熟期の仕事

サービスや組織が大きくなってくると、それを維持し、成長を安定させるために次のような仕事が増えてくる。

・データ分析の仕組みづくり・組織構造の設計・マネジメント(目標設定/1on1/評価)の仕組みづくり・法的な問題への対処・さらなる資金調達

この時期の仕事はイチ作り手としては楽しみづらいし、得意でないことも多い。「事業をデザインする」「組織をデザインする」という呪文を唱えて、より複雑な問題解決に挑もう。

◆ データ分析の仕組みづくり

サービスの規模が大きくなってくると、ユーザーインタビューなどの定性情報を頼りに意思決定(デザイン)することは難しくなってくる。見える範囲のユーザーが、全体における一部でしかなくなってくるためだ。ユーザーの全体像を捉えるためには、データを通してユーザーを見た方が良い

Fablicは、UXリサーチをベースとした開発文化をもつ組織で、様々なデータを持っているものの、ある時期まで十分に活用できていなかった。そこでRedashというBIツールを導入すると共に、非エンジニアを対象としたSQL研修を行って、誰でもデータを自由に取れるようにした。

デザイナーやディレクターからすると、プランニングのためのデータ取得に毎回依頼が必要では心理的コストが高い。それを軽減してあげた結果、Fablicでは最終的にデザイナーだけでなくディレクターやCSのメンバーも自分たちでデータを出し、自動化し、ダッシュボードを作るようになった。

すべての分析を素人のDIYで進めることは難しいし、環境構築や教育のコストも無視できないとは思う。しかし、最も情熱を持っている担当者が納得行くまでデータを見られることには、意味があると思うのだ。

(※楽天には分析力の高い人が多いので、今ではバッキバキに補強されている)

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法的な問題への対処

法令を遵守したサービス設計/運用を行っていたとしても、世の中に与える影響が大きくなると、いつかは法的な問題への対処が必要な場面が来る。

その相手は法務部門や顧問弁護士かもしれないし、その先に監督官庁がいるかも知れない。多くの場合、そこで提案される対処方法は「文字を増やす」か「文字を目立たせる」ことだ。それをそのまま実装した場合のUXに問題があると判断したなら、戦わなくてはいけない。(担当者とではなく問題と)

新たな領域を攻めている場合「こうすればOK」という明確なルールはないので、関連法規を頭に入れつつ、担当者とのディスカッションベースで落とし所を探っていくことになる。相手がOKを出すためのロジックを構築し、その上でシンプルさを追求する作業は骨が折れる。しかしこれもまた、デザイナーにしかできない仕事だ。

FRIL/ラクマにおいては、「旧ラクマ→フリルへのお引越しツール」「売上金を楽天Payにチャージできる機能」などで、このような挑戦が多かった。大変な分、リリースできた時の喜びはひとしおである。

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やってきたことのまとめ

全体を通して、やることの変化は次のようになる。

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5. EXITのあとで思うこと

Fablicはフリマアプリ市場の激化に伴い、資金調達の方針を切り替え、楽天グループ入りを選択した。その後の2年弱でサービスが大きく成長できたことを考えると、この意思決定は正解だったと思う。なお、2018年7月1日をもってFablicは楽天株式会社に吸収合併され、法人格としては完全に消滅した。

6年間を振り返るといろんな思いがよぎるが、まとまらない感情を反芻しながら、ここしばらくは過ごしている。ただ起業したことに後悔はなく、また新しいスタートアップに取り組みたいとも思っている。なので僕にとってはいいキャリア選択だったのだと思う。

ただ、困ったことに感動のハードルが上がってしまったようで、同じような会社を作り、同じような成果を出したところで満足できそうにない。EXITを経験した経営者仲間も似たようなこと言っているので、そういうものなんだろう。新しい取り組みとして、スタートアップへのエンジェル投資もはじめた。僕のようなデザイナー出身の起業家や、デザイナー不在のスタートアップを応援したいと思っているので、興味があれば連絡をもらえると嬉しい。

もちろん、新しいプロダクトも作っているのでご期待ください。