ここ最近はあたらしいプロダクトを作っていて、そのサービス名を考えるのに四苦八苦している。というか、新しいサービスを手掛けるたびに毎回ネーミングで多大な苦労をしている。
このままでは数年後、また四苦八苦することになるだろうから、せめて今回考えたことを未来の自分のために記しておくことにする。
今回も、基本的には自分用メモなのだけど、僕じゃない誰かの参考になればいいなとも思っている。
📈 ネーミングの効果
まず考えたのは「そもそもネーミングってなんの意味があるのだろうか? 」ということ。「仮にすべての商品名がランダムな文字列でつけられていたら?」と極端な想像をすると、良くないことのように思える。
顧客獲得の観点で考えると、パッと思いつくのは次の2つだ。
👀 認知されやすくなる
顧客獲得の最初のステップは「記憶に残る」こと。そして次に「商品性が伝わる」ことだ。商品名がこれらに影響を及ぼすのであれば、マーケ観点でネーミングに投資することは合理的な判断ということになる。
📣 広まりやすくなる
いい商品は口コミで広まる。ネーミングがそれを妨げてはいけないので「発音しにくい」「悪い意味を連想する」ことは当然避けたい。逆に「口ずさみたくなる」ような音であればそれを促すことができる。
🍵 最高のネーミングはいつもひとつ?
じゃあ「記憶に残りやすく」「商品性が伝わり」「口ずさみたくなる」ネーミングが常に最高なのだろうか?
「お〜いお茶」とかはまさにそんな感じだけれど、Appleのairpodsが「お〜いワイヤレスイヤフォン」だったら? ...僕は買わないかも知れない。
どんな商品か、どんなお客さんか、どんな時代か... 置かれているシチュエーションによって、ネーミングの評価は変わり得る。だから自分たちが「なにを作っているのか」「なにを目指しているのか」といった前提を整理してから名付けに入ったほうが良さそうだ。
📖 ネーミングのプロセス
💡 1. 商品の理解
命名するには、対象についての理解が必要だ。我が子に対してそうであるように、商品やプロダクトがどうあってほしいのか願いを込める行為でもあるからだ。名付け役はその商品について精通しているだろうが、改めて言語化しながら整理していく。
🖋 2. キーワードの列挙
商品についての情報が整理できたら、ネーミングの素材となる「キーワード」を書き出していく。具体的には「切り口」×「言葉のジャンル」の掛け算で列挙していく。切り口は何でも良いのだけど、「1.商品の理解」で整理した商品の特性からはじめると手っ取り早い。
個人的には、ここでよいキーワードを見つけられないと、いいネーミングは難しいと思う。掛け算の解を机上でひねり出していてもすぐに限界が来るので、辞書を引いたり、本屋を徘徊したり、街中で眼にする言葉を書き留めたりして、よいキーワードが見つかるまで粘ってみよう。
🔨 3. キーワードの加工
ある程度のキーワードをひねり出せたら、それを名前に加工していく。加工する方法はいくつもある。
例えば「お絵かき」というキーワードであれば
そのまま👉 OEKAKI 足し算 👉 お絵かきくん 引き算 👉 OEKA 掛け算 👉 オエカキッズ(キッズとの掛け合わせ) 記号/数字化 👉 0ekak1 略語化 👉 エカキル 擬人化 👉 Mr.お絵かき 会話化 👉 おーいお絵かき 長文化 👉 お絵かきとは何か、あるいはなぜ私は心配するのをやめてドローイングを愛するようになったか 当て字 👉 雄絵火記 言葉遊び 👉 カキカキオエカキ
といった具合に加工することができる。
📊 4. 評価
最後にできあがった名前を評価していく。どのような軸で評価すべきかは商品や人によってそれぞれだが、例えば以下のような項目が考えられる。
💎 価値表現: サービスのコアな価値を表しているか
💡 わかりやすさ: パッと見て意味がわかるか
👄 発音しやすさ: 口に出して発音しやすいか
📝 覚えやすさ: 記憶に残りやすいか
💕 親しみやすさ: 名前から想像するイメージが好ましいものか
🎵 語感: 音の印象は商品とマッチしているか
🖌 字面: ロゴとして見たときに、字面がカッコイイか。
これらすべての項目を、同じ重みとして採点してもいいし、逆にどれか一つだけで評価してもいい。僕の場合は「わかりやすさ」よりも「語感」を重視したいなと思っているし、ときに「字面」が一番大事と思うこともある。
採点結果と直感がズレることもあるが、自分が何を重視したネーミングをしたいのか?それに則って考えると相対的にどれがいいのか?を整理するのには役立つのではないだろうか。
✅ 5. 各種アカウント取得チェック
よい名前でも、同業他社が使っていたりすると問題があるので、いくつかのチェックを行う。
エゴサーチ
まずは候補の名前で検索してみよう。他社の同名の商品や、思ってもみなかった意味に気づくこともある。「LINE」とか「CASH」みたいな一般名詞は競合する検索結果が多いので難易度が高そうだ。
商標説明するまでもなく、商標は取ったほうがよい
特許庁が提供するサイト。正確に調べたいときはここを見る
シンプルで使いやすい。 検索パラメータに任意の文字列を含めることで、検索結果ページを直接参照できるのが最高だ。
ドメイン
Webサービスやアプリに限らず、公式サイトは必要だろう。最近は「.app」「.dev」みたいないい感じのドメインが新しく出てきているけれど「.com」か「.jp」のような定番ドメインの方が見る側に安心感があるので、なるべくその方がいいと思う。
ムームードメインToreruと同じ理由でスプレッドシートとの相性がよい。どうでもいいけど日本の大手レジストラでは「バリュードメイン」もいつの間にかGMOグループになっていたので、もはやどこで取っても大差なさそうに思える。
SNSアカウント
Twitter/Instagram/Facebookのアカウントが空いているかは一応チェックしておこう。空いていなかったら末尾に「jp」「official」などをつけて取ったりするのが(ぼくの観測範囲では)多い。
💥 6. ちゃぶ台をひっくり返す
ここまで来ると、いくつかのネーミングが候補として手元に残っているはずだ。もちろんこの中から選んで決めてもよいのだが、あえて一度ちゃぶ台をひっくり返してみよう。
あらかじめ決めたプロセスでサクサク進んでいくのは気持ちいいが、予定調和で凡庸なアウトプットになるのは何より怖い。
具体的には、プロセスを一旦無視して、頭に浮かんだ名前をネーミングとして評価してみよう。例えば「空きドメイン」や「空き商標」が5のプロセスで見つかっているだろうから、そのあたりからキーワードを拾うのもいいだろう。
デザインでもそうだが、いくらプロセスを整理したとしても一発でうまくやるのは、なかなか難しい。実際には、1〜6を行ったり来たりしながらゴールを目指していくことになるだろう。
🐮 ネーミングの迷宮で迷わないために
繰り返しになるが、ネーミングに絶対的な正解はない。ここまで書いてきたような考え方で思考を整理しながらも、結局は「どういうサービスを作りたいか」によってエイヤで決めることになる。
逆に正解を探し始めてしまうと、どんどん迷いが生じてしまい抜け出せなくなってしまうことがある。そんな時チームの中にひとり壁打ち相手がいると、迷いのループにハマりにくくなるのでおすすめだ。
また、チームに途中経過を報告したり「2. キーワードの列挙」などのプロセスに巻き込んでいくことで、納得感(自分たちが決めた感)が生まれ、完成したネーミングが浸透しやすくなるので、これも併せておすすめする。
一方で、最後は決めるべき人がバシッと決める(合議で決めない)方がよいので、その覚悟を持っておこう。
🎁 おまけ
上記のプロセスで使用した2つのツールをおまけにつけておくので、自由に コピー・ダウンロードして使ってくれてOKだ。
ネーミング検討シート(記事用) - @takejune商品の把握 商品実態の把握 商品の成り立ち (原料・技術・産地など) 機能 (栄養価・効果など) 性質 (味・色・匂いdocs.google.com
文中に登場した画像の元になったファイル。穴埋めしていくことでこのエントリに書かれているプロセスを進めることができる。
考えたネーミングを打ち込むと、それっぽいプレゼン資料ができあがるデザインデータ。ビジュアル面から良し悪しを判断したいときに使ったり、類似サービスをマッピングして整理したりできる。Figmaは途中経過をチームに対してオープンにしながら進められるので、デザイン以外にもおすすめ。
参考書籍
事例が紹介されている本かと思いきや、ネーミングの詳細なプロセスが記載されています。このエントリも本書籍の影響を強く受けています。おすすめです。