❓このエントリーは
先日、母校の名古屋芸術大学でデザイン学科の1-2年生に講義をさせて頂く機会がありました。各業界のデザイナーが週替りで担当する授業の一コマです。
何を話そうか迷ったのですが、そもそも学生はインターネット業界について知らないでしょうから、まずはそこから説明することにしました。そこで学生向けに現在のインターネット業界を説明する資料を探してみたところ、思ったようなモノがなかなか見つかりませんでした。
という訳で「デザイン系の学生」を対象に「インターネット業界」の「デザイナーの仕事」について説明することにしました。
このエントリーは当日の授業内容の一部をまとめたものです。正確さよりも分かりやすさを心がけていますので、玄人目にはツッコミどころがあるかも知れませんが、温かい目で見て頂けると幸いです。
👨 自己紹介
takejuneです。10年前に大学を卒業しました。今日は「インターネット業界でデザイナーとして働くこと」についてお話します。
🌏 世の中の変化について
参照: DIAMOND ONLINE
これは平成の始めと終わりに、価値が高かった会社のランキングです。金融と石油の会社から、ITの会社に顔ぶれが大きく変わっていることが平成の30年間でITが世界を変えたことを表しています。では、どのように変わったんでしょうか?
インターネット業界で有名なマーク・アンドリーセンというおじさんが、2011年のインタビューで「ソフトウェアが世界を飲み込む」と語り話題になりました。これは「世界がどう変わったのか?」を端的に説明しています。
例えば、世界中にあった「レコード屋」「本屋」「レンタルビデオ屋」は急速にその数を減らしています。何に置き換わっているか。
みなさんもよくご存知の、「iTunes」「Amazon」「Netflix」といったサービス、つまりソフトウェアです。
そしてプロダクトの世界でも同じことが起きています。「音楽プレイヤー」「本」「カメラ」これらは何に置き換わっているでしょうか。
そう、すべてスマートフォンです。このように情報を扱う店舗・プロダクトはスマートフォンを通じてソフトウェア化し、実物としては消えつつあります。そして実物として存在するプロダクトであっても、どんどんインターネットに繋がり、半ソフトウェア化が進んでいます。
これが私達が暮らしている社会であり、デザインを提供していく先の社会です。
💻インターネット業界について
そんな社会の中で、インターネット業界はどのように存在しているでしょうか。もしかしたら「IT業界」の方が「インターネット業界」よりも耳馴染みがあるかも知れませんが、今日お話するのは後者についてです。
例えば、IT業界はざっくりこのように分類できます。インターネット業界はその一部だと思ってください。
この場では、インターネット業界をさらに3種類の会社に分けてご紹介します。ややこしい字面が並んでいるので、一つずつ説明します。
🏢BtoC事業会社
BtoC事業会社は、一般の人が使うサービスを開発・運営している会社です。どんな会社があるかの説明を兼ねて、日本のC向けサービスの歴史を年表でざっくりご紹介します。
🖥 PC・ポータルサイト時代
1996 Yahoo! JAPAN1997 楽天市場1999 2ちゃんねる2000 Amazon.co.jp
これは多分、みなさんが生まれた時くらいの話ですね。インターネットはPCでやるものでした。ネット上には個人が作ったページが多く、商用のサイトは今ほど多様ではありませんでした。
📳 ガラケー・CGM時代
2001 iアプリ / Wikipedia2002 着うた2003 livedoor Blog2004 Gmail / Ameba / Facebook / GREE / mixi / ZOZO2005 Google Maps / Youtube / はてなブックマーク / 食べログ2006 ニコニコ動画 / Twitter
家庭用の高速ネット回線が普及しだすと、PCで見られるサイトの品質がグッと上がりました。ブラウザ上でグリグリ動く、Googleマップの登場は象徴的な出来事だったと言われています。
imodeとか知ってますかね..? ケータイでは回線速度も端末の処理能力も低かったので、PCと同じサイトは基本的に見られなかったんですね。それもあってか、ケータイからも新しいモノが多く生まれていました。
📱 スマホ・SNS時代
2007 ニコニコ生放送2008 iPhone 3G2009 Android / NAVERまとめ2010 Instagram / iPad2011 LINE2012 フリル (現ラクマ) / SmartNews / Pairs2013 メルカリ / グノシー / MERY
スマートフォンの誕生と共に、たくさんのサービスが生まれました。みなさんが知っているものも多いと思いますが、実はその多くがPCやガラケーで流行っていたサービスを、スマホに最適化させることで生まれました。ヤフオクやモバオクに対する、フリルがいい例ですね。
動画 / AI / ブロックチェーン / AR / VR📮ポストスマホ時代
2014 コインチェック2015 Netflix(日本版) / SNOW2016 AbemaTV / Google Home / クラシル / ポケモンGO2017 Clova / TikTok
そしてこの瞬間にも、新しいサービスが生み出されているはずです。数年後振り返ってみたときに、何時代と呼ばれることになるのか楽しみです。
Webサービスの歴史を振り返ると、数年周期で大きな環境変化が起きています。そしてそれはデバイスの変化によってもたらされています。
人々の欲求はいつの時代もさほど変わりませんが、環境の変化によって求められるサービスやプロダクトの形は変化します。その節目に立ち会えるのはデザイナーとしても楽しいものです。
🏢BtoB事業会社
BtoB(企業向け)のサービスは学生には馴染みが薄いと思いますが、この分野もいま熱いです。便利でデザイン性にも優れたサービスが多く生まれています。
BtoBのサービス例
BtoBのサービスをつくるということは、誰かの仕事の生産性を高めることです。それは誰かの仕事を通じて世の中を良くすることでもあります。特に、日本は労働人口が減少していくので生産性の向上が急務です。またBtoBは、長らくデザインへの投資が行われてこなかったので、デザインによって改善できる余地が大きい分野でもあります。興味があれば「SaaS」という言葉で検索して、色々なサービスを調べてみてください。
🏢受託会社
受託会社はサービスを運営する事業会社ではありません。事業会社から依頼を受けて、開発・デザイン・戦略立案などを請け負う会社です。Web業界では古くからシステム開発会社は多くありましたが、時代の流れからデザインに強みを持つ受託会社が増えています。
💡そういった会社は「デザインファーム」とも呼ばれている。
代表的なデザインファーム
受託会社の魅力として「色んなビジネスのデザインに携われる」「新規立ち上げにたくさん関われる」という点があります。ひとつのサービスに長く深く関わる事業会社よりも、多様なデザイン表現の引き出しを身につけやすいです。
🖌 デザイナーの仕事について
さて、そんな業界の中でデザイナーが実際にどのような仕事をしているのかという話をします。説明はざっくりですが大体合ってると思います。
Webサービスやアプリをつくるプロセスは会社によって違いますが、例えばこんなやり方の会社があります。具体的な手法をいくつかご紹介しましょう。
調査
サービスを思いついたら、まず行うのがリサーチです。
これはフリルをつくるときに実際に使用したアンケート用紙です。このように実在する人々にインタビューすることで、自分の思いつきが正しいのか確認していきます。
設計
調査に基づき、企画が固まったら、お待ちかねの設計に入ります。
今やデジタルプロダクトでも、プロトタイピングが当たり前になっています。手書きやデザインツールで紙芝居をつくって、画面の構成や遷移を推敲します。
UIデザインツールはいくつかありますが、どれも複数のアートボードを編集しやすく、プロトタイプツールが一体化した作りになっています。見たほうが早いので、デモをしてみましょう。
(デモ)
このようにプロトタイピングを行い、実際の使い勝手に配慮しながらグラフィックを仕上げていくというわけです。
実装
さて、設計とテストを経てアウトプットの形が決まれば、あとは実装するのみです。
この黒い画面をみて、拒否反応を持った方も多いと思います。ただ、作ったデザインを最低限動かすのであればさほど難しくありませんし、今はProgateなどの学習環境も整っています。苦手意識を持たないことが大切です。
肩書と担当範囲
これらのプロセスを一人でやるのは大変です。大規模なサービスであれば、必ずチームで取り組むことになります。
複数のデザイナーでプロセスを分担し合う場合、(大雑把に言うと)このような役割の持ち方をすることになります。
UXデザイナーは主に調査・企画・設計を担当し、UIデザイナーは主に設計・テスト(&修正)を担当します。見た目に関わるプログラムをUIデザイナーが書くこともありますが、コーダー(フロントエンドエンジニア)に任せる会社の方が多いかも知れません。
よく分からないですか?...そうですよね。
要は「Webデザイナー」という一つの肩書で、デザイナーを括ることは今や難しいということです。理由はデザイナーのやることが増えたし、一つ一つが難しくなったからです。(すべてやった上で「デザイナー」とだけ名乗るカッコいい方々もいます)
現在のインターネット業界におけるデザイナーの仕事は、ビジネスやプログラミングと深く結びついており、基本的にはそれも含めて楽しめる人の方が向いている世界だと思います。
そんなこともあり、学歴的には美術系・デザイン系の背景をもたない一般大・総合職など出身の「デザイナー」が増加しており、競争が生まれています。論理的な思考力に長けている彼らと、どう渡り合っていくのか、美術系出身デザイナーにとっては今後のテーマになるかもしれません。
🏢 起業について
「起業」というデザイナーの新しい選択肢について、僕の経験を元にお話させてもらいました。下記のエントリと重複しますのでこのエントリでは省略させていただきます。
一点だけアップデートした点としては、副業(複業)とフリーランスの増加についてです。起業よりも身近で新しいキャリア選択として紹介しました。
📓 まとめ
世の中がソフトウェア化している・あなたの進みたい業界やデザインしたいモノはどうか?・ソフトウェアに食われないモノをデザインするのか、食う側に回るのか?
インターネット業界のデザイン需要が増加している・BtoCは一般社会に影響を与えられる・BtoBは誰かの仕事(を通じて社会)に影響を与えられる・受託は多様な経験ができ、お客様にも感謝される
デザイナーの仕事が広範囲・高難度になってきた・多くの会社で分業が進んでいる・非美術・デザイン系出身の優秀なデザイナーが増えている・どのような強みを持ったデザイナーとして生きていくのか?
デザイナーは起業するという選択肢も選べる・とても大変だし、リスクもある・楽しさ、やりがい、リターンも大きい・フリーランス、副業も増えている
誤解しないで欲しいのですが、この業界に無理して入ってほしいとは思っていません。結局のところ、好きなことでなければ長期的に努力し続けることは難しいので、好きなことがハッキリしているならそれをやるべきです。
ですが、まだやりたいことが決まっていないという方には、サービスデザインはめちゃくちゃ面白いので自信を持ってオススメできます。今日の授業でインターネット業界に興味を持つ方が少しでも増えると嬉しいです。
ご清聴ありがとうございました
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