こんにちは、takejuneといいます。
スマートバンクという会社で共同創業者兼CXOとして働いています。
過去につくったものとしては、日本で初めてのフリマアプリ「FRIL」というサービスがあります。現在では楽天株式会社で「ラクマ」というサービスにリブランディングして運営されています。
その他には、エンジェル投資家と起業家をつなぐプラットフォーム「AngelPort」というサービスをつくりまして、これも昨年ある会社に事業譲渡しました。
いまは新しくつくったスマートバンクという会社で、プリペイドカードと家計簿アプリで、日々の支出をかんたんに管理できる「B/43」というサービスの立上げに取り組んでいます。
今力を入れている「ペア口座」という機能は、現金でもキャッシュレスでも難しい、夫婦やカップルの共同の支出管理に最適なものです。このように、今までになかった新しいサービスを、実在する人々との対話や観察を経て生み出すということをずっとやってきました。
今日のタイトルにもある「つよくてニューゲーム」は、テレビゲームをクリアしたレベルのままもう一度最初からプレイすることを指す言葉です。
わたしは1周目のスタートアップ創業に続けて、いま2周目に取り組んでいます。今日は私の体験をゲームのようにリプレイしながら、スタートアップの様々な局面におけるデザイナーの役割をお話できればと思っています。
今日お話する内容ですが、まず一周目のスタートアップで「立ち上げ期」と「成長期」にそれぞれなにをしてきて、どのようなポイントで貢献できたのかいくつかご紹介します
次に、二周目のスタートアップに取り組んでいる今感じている、1週目から引き継げたこと、引き継げずに改めて0から向き合う必要があったことをお話し、最後に少しのメッセージをお伝えします。
🐣 立ち上げ期とデザイナー
ではさっそく本題に入りましょう。まずはスタートアップの立上げについてです
「共同創業者」と出会う
最初に共同創業者との出会いがありました。一人でもスタートアップをつくることはできますが、統計的には共同創業者がいたほうが成功確率が高いと言われています。
私の場合は、新卒で入った会社の同期と週末にWebサービスを開発するという遊びからスタートしました。この2人と最初の会社を立ち上げて、新しい会社も一緒にやっています。それぞれデザイン、ビジネス、テクノロジーといった得意領域を持っています。
一般論として、この3つが重なるところにイノベーションが生まれるといわれています。
スタートアップの立ち上げにデザイナーが貢献できる理由はここにあると思います。
「課題を見つける」
そうして生まれたチームで次にやったことは、解くべき「課題」を見つけるということです
わたしたちのチームが起業する前に、eventapというサービスをつくりました。これはTwitterをつかって、でかける日程調整をするというものでした。「自分たちが考えた最強のサービス」でしたが、このサービス、ほとんど誰にも使ってもらえませんでした
一生懸命つくったモノではあったんですが、蓋を開けてみたら誰の課題も解決できていなかったんですね
それからは具体的に、実在する誰かが困っていることをみつけて、それを解決するサービスを作ろうと心に決めて「課題(イシュー)の特定」をするようになっていきました。
たとえばその一つの方法がデプスインタビューです。このアンケート用紙は実際にフリマアプリを最初につくるときに若い女性にインタビューしていたときのものです。アンケートに記入してもらった内容を元に、ターゲットの生態を把握しながら、想定している課題が実在するのかを確認するためのインタビューを行っていきました。
字が小さくてみづらいのですが「もう着なくなった服をどうしていますか?」という設問があります。当時ヤフオクやモバオクといったオンラインで物を売買できるサービスはあったのですが、彼女たちはそれを使っていなかったんですね。代わりに当時はやっていたmixiやデコログといったサービスでメールに写真を添付してアップロードするという面倒な方法で服を売っていました。その不合理な解決手段を見た時に、まだ解決されていない課題が実在することを確信しました。
「フィードバック」を集める
ラッキーなことに、想定していた課題が実在することを特定できたので、次はどんどん手を動かしてフィードバックを集めていきました。
これはフリマアプリの最初期のLPです。今見ると少し恥ずかしいんですけどw作っている途中でインタビュー相手に見せて、反応を見ながら、プロダクトのコンセプトや伝え方をブラッシュアップしていきました。
そしてこれは初期のUIです。装飾は時代やターゲットによって変わりますが、根本的な部分はすでに完成されていることがお分かりいただけるかと思います。
UIもできたところからユーザーに触ってもらって、改善していきました。開発中にはメンバーの間でUIについて意見が割れることもありますが、ユーザーの反応を見ればどちらがいいのか一目瞭然なので、どんどん仕様が決まっていきました。
このように立ち上げ期においては、プロダクトを目に見える形にすることで、事業を前に進めることを意識して取り組んでいました。
🐥成長期とデザイナー
サービスが立ち上がった後、待っていたのは成長のフェイズでした
「ユーザー獲得」の工夫
そこでいつも考えていたのは、ユーザーを増やすために工夫できることはないかという...普通のことです。ですが、普通ではない速さでサービスを成長させられる「裏技」みたいな方法がないかいつも探していました
それは当然ビジネスの世界には競争が存在するからなんですね。実際にわたしたちが生み出した「フリマアプリ」という分野にはその後ベンチャーから大企業ふくめて数十のアプリが乱立する市場になりました。
私達もわかっているつもりではあったのですが、フリマアプリの市場というのは「売り手をたくさん獲得した方が勝つ」というゲームだったんですね。このような、自分たちのプロダクトの外側には、プロダクトが属するマーケットがあり、マーケットにはルールが存在するということをやりながら学んでいきました。
なのでユーザーの課題に深く潜って、課題を解決できる、品質の高いプロダクトを提供することは前提ですが、競合サービスに追いつかれないよう、早く成長するということが宿命付けられていました。
そのための手段は色々とありますが、デザイナーが貢献しやすいものとしては広告があります
最も接する機会が多いのはオンライン広告です。1つのクリエイティブが平均何円で何人のユーザーを獲得できたのか明確にわかるので、自分のデザインの結果がすぐに数字として見られるのはやっていて面白いです。
ある時、アメリカでFacebookアプリ上で配信できる広告がはじまって、日本でも数ヶ月後に開始というニュースを見つけました。そこで調べてみるとすでに英語の管理画面が存在しているのを見つけました。そして自分のFacebookアカウントでログインしてクレジットカードを登録したら、配信できてしまったんですね。
日本ではまだ出稿している人がいなかったので、Facebookアプリ内の広告を見慣れていないユーザーが多いことを意識してデザインしました。当時多くのFacebookユーザーの空っぽのタイムラインがこれで埋まったと思います。
そして結果的には、通常数百円かかる会員獲得を数円で実現できて、最初の100万DLまで加速するきっかけになりました。自分で出稿を決めて、自分でデザインして、自分で配信するというデザイナー創業者ならではの立ち回りによっていい成果をあげられたかなと思います。
「プロダクト」の改善
もちろん、プロダクトを広めるだけでなくより使いやすくなるような改善もしていました
ただ、そこで気をつけていたのは成長を求めると自然と多目的化や複雑化していきやすいということです
サービスのコアな価値に悪影響がない場合はユーザーがそのプロダクトを使う理由を増やす「多目的化」は一概に悪いとはいえません。
利用者が増えるほど利便性が高まるサービスであれば、利用用途を広げることを怖がりすぎない方がいいと思います。フリルは最初ターゲットを女性やファッションに限定していましたが、後にオールジャンルに広げていきました。
要注意なのは、それによってプロダクトがユーザーから見て複雑になっていくことです。それはたいてい、最も大事な「かんたんに売れる、買える」といった提供価値を損なうことにつながるからです。
開発の現場ではビジネス上の様々な理由で、様々な機能追加要求が押し寄せてきますが、しがらみの少ないスタートアップであれば、創業者デザイナーの強固な意思でそれを取捨選択して、複雑化を防ぐことができると思います。
ちなみに先程お見せした2012年のフリマアプリがこちらで
現在のUIはこちらになります。いまの運営者さんたちのおかげで、多機能にはなっていますが、シンプルさを保てているのではないかと思います。
「企業文化」の構築
またプロダクトが軌道に乗っていくにしたがって、仕事の比重が組織運営にだんだん移っていきました。そこでもデザイナーとして取り組めたことがいくつかあったかなと思います
ひとつはデザインを会社の文化として組み込んでいくということです
組織を強くしていこうとすると、どこかでミッション・ビジョン・バリューといったものを定義していくフェイズが来ると思います。
これらは初期の会社に実際にいるメンバーの性格やチームの雰囲気が自ずと反映されるものだと思いますが、私達の場合は「本当に必要とされているものをつくる。」というビジョンだったり
「ユーザーに求められるものをつくろう。」というバリューを採用していました。これはまさに初期に行ったユーザーインタビューや、デザインドリブンの事業運営が反映されているかなと思います。
またその文化を外に対して発信していくということにもクリエイティブが関わっていました。
わかりやすいところでいうとコーポレートサイトだったり、こういったスライドのデザインなどもそれにあたるかもしれません。
デジタルプロダクトをつくる会社にとって人材は最も重要な資産なので、こういった形で採用活動を支援することもデザインの一部だと思ってやっていました。
というわけで、ここまでが一周目の起業で体験し、学んだことでした。
立ち上げ期には「共同創業者」と出会い、「課題」を見つけ、「フィードバック」を集めてプロダクトを完成させていき、成長期には「マーケティング」の工夫、「プロダクト」の改善、「企業文化」の構築といったことに取り組んでいました。
会社の合併やプロダクトの統合を経て退任後は、後進のスタートアップを支援したり、プライベートワークでサービスをつくったり、海外までリサーチしに行ったりといったことがあったのですが、長くなるので今回は割愛します。
では続けて二週目の起業のエピソードに進みたいと思います。準備はいいですか?果たして「つよくてニューゲーム」は実際にあるんでしょうか?
🐓立上げ期とデザイナー(2)
二周目の起業はまだまだ立ち上げ期です。でも、1周目から比べるとどこか成長しているような気もしています
引き継げること
1週目の起業から引き継げることが実際になにかあったのかと言うと..いくつかありました。
課題の見つけ方
ひとつはその会社で解決すべき、ユーザーの持つイシューの見つけ方です。どのような人々のどのような課題を解決していくのかということですね。
私がいまつくっている、B/43というサービスは毎月の「支出管理」をだれでもかんたんにできるようにするためのプロダクトですが、これも前職でサービス運営する中でみつけたインサイトを元にしています。
毎月の生活費に困っている人も多かったのですが、その人達の生活を深ぼっていくと、クレジットカードの請求額を把握できず使いすぎてしまったり、現金での管理が続かず結果的に毎月赤字になっていて、その補填にフリマアプリの売上金を当てていまして、要はうまい支出管理の手段がないという状態だったんですね
このようにひとつの事業を通して、枝葉のサブ課題に気づくことは往々にしてあります。
起業のテーマを無理やり見つけ出すよりも、よくわかっているこれらのサブ課題を2回目の起業のテーマとするのはありだと思います。
築いてきたつながり
引き継げたことの2つめはこれまで築いてきたつながりです。
会社が変わっても、個人同士のつながりは残っているので、元々一緒に働いていたメンバーがまた初期のメンバーとして参画してくれたり、同業界の知人が副業で手伝ってくれたりと、人を集める部分でこれまでの関係性が活きてるなと思います。
そういう意味ではVCなどの投資家の方とも関係性は続いていて、資金調達がしやすいとか、メディアの方が知ってくださっていることで、一回目に起業した時よりはメディア取材が増えたりといった好影響があったなと思います。
デザイナーとしてはある程度、メディア用のプレスキットを用意したり、記者会見用のスライドを準備したりといった動きを行っています。
会社の文化
3つ目ですが、同じ創業メンバーでまた起業していることもあって、会社のカルチャーは大部分が前回の会社を引き継いでいるなと感じます。
もちろん新しいメンバーの影響でより強化されている部分もありますが、制度も含めてゼロベースから考える必要なくショートカットできています。
デザイナーとしては、時間が無いなかでも会社のカルチャーを外から見えるようにしたいということで、Notionをウェブサイト化する「Super」というサービスを使ってクイックにコーポレートサイトを立ち上げています。
引き継げないこと
逆に引き継げないものも、もちろんあります
課題の解き方
それは課題の解き方です。事業のテーマに対してどのようなにプロダクトという解を生み出し、それを提供していくのか。
新しい事業に取り組むということは、新しいユーザーの新しい課題解決に挑むということでこれは毎回新しいパズルを解いていくようなものです。新たな課題を解くには、またゼロからユーザーと向き合って最適な解決策をデザインする必要があります
というわけで、二周目の起業で学んでいることはこんな感じです。
引き継げたこととしては、テーマの見つけ方、築いてきたつながり、会社の文化があり
引き継げなかったこととしては、課題の解き方がありました。
🥚これからスタートアップする(かもしれない)あなたへ
リプレイはここまでです。スタートアップを創業するという働き方について、すこしでも理解が深まっていれば嬉しいです。最後にこれを聞いているあなた自身が、スタートアップ創業に取り組むという選択肢について、少しリアルに考えてみましょう。
そう言われても、このような「創業メンバー」や「経営幹部」という形でデザイナーを迎え入れたいと思っている起業家は実際にいるのか、気にならないでしょうか?
そこで、こんなアンケートをTwitterで取ってみました。
「信頼できるデザイナーを共同創業者または経営メンバーとして迎え入れたいですか?」という質問に対して、263票の回答があり、半数以上の起業家が「とても迎え入れたい」という結果となりました。
スタートアップ経営にデザイナーが求められていると思えるような結果ではないでしょうか。
それがわかったとしても、こんな大変そうなスタートアップの創業にわざわざ挑む魅力とはなんなのか、すこしだけ補足させてください。
私が思う魅力は大きく分けて3つありまして
ひとつは、自分が思う理想のプロダクトやチームをつくりあげるチャンスがあるという「楽しさ」です。私自身人生で最も大変で、最も楽しい10年間を過ごしたなと思います。
楽しさだけではなく、世の中に対して影響を与えうるということが大きな「やりがい」にもなります。自分の頭の中だけに存在していた「フリマアプリ」という言葉がこれほど一般化してコンビニなどで目にするようになるとは思いませんでした。
また大きな「経済的リターン」を得られるチャンスもあります。もちろん成功できる人ばかりではありませんが、チャレンジした経験自体がポジティブに評価されるものかと思います。起業経験のあるデザイナーを欲しがる会社はたくさんあると思います。
ただ最後にひとつ言っておきたいのは、創業者や一人目のデザイナーが偉いわけでも、優れているわけでもないということです。長いスタートアップの道のりでいつ入社する人も、それぞれの役割があり、それぞれ尊いと思っています。
そんな2人目のデザイナーをスマートバンクでもちょうど募集しています。いまなら今日お話したプロセスの多くを一緒に体験していけると思っていますので、興味あるのある方はぜひご連絡ください。
という風に、ここに登壇して、この話をしていることもまさに私にとってはデザインというわけです
これから、スタートアップの創業がデザイナーの働き方の選択肢の一つになると嬉しいなと思います
登壇後の追記
私がキャリアをスタートした2010年前後はデザイン系のイベントといえばCSSniteくらいしかなく、YAPCやRuby Kaigiなどエンジニアが参加する大規模カンファレンスや、IVSなどのビジネスイベントを少し羨ましく眺めていた記憶があります。
今回、自分たちの世代(まだ現役ですが 笑)で実現できなかったこのようなイベントを現在20代の次世代がつくり出しているのを見て、大きな感慨深さと、少しの申し訳なさと、やっぱり下の世代のほうが常に優秀だなと背筋が伸びる感覚がありました。
Designshipはリアルで開催された2019年を見に行ったこともあり、そのときは運営のクオリティの高さに驚いた記憶があり、原研哉さんの基調講演もすばらしいものでした。その時にお聞きしたEmpty(空っぽ)をデザインするという概念は現在のプロダクトにも取り入れています。
30代以上の人はまだまだ「デジタル系の若いデザイナーたちが主催している、若いデザイナー向けのイベントでしょう?」と認識されている方も多いかもしれませんが、デジタルに限らず様々な業界のデザイナーさんの視点に触れられる貴重な場であるように感じましたので、忙しい日常業務の手を止めて参加してみる価値はあるように思いました。
また「いつか登壇したい」という目標になるような、良い意味で権威になり得るような場があることは日本のデザイナー育成エコシステムとして貴重なのではないかと思うので、個人的にもできることがあれば今後も協力させていただきたいなと思いました。
いつも感じがよく、精力的に取り組まれている運営メンバーの皆様に感謝致します。
グラフィックレコーディング
当日Miroで参加者の方々がリアルタイムにグラフィックレコーディングをしてくださいました。感無量です!
from: https://twitter.com/kmdrism/status/1452126222775820293